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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)1161号 決定

債権の差押命令及び転付命令は、いずれも執行裁判所が債権に対する強制執行として決定の形式をもってする執行処分であるところ、これに対する不服申立ての方法として、民事訴訟法第五四四条に規定する執行の方法に関する異議によるべきか、又は同法第五五八条の規定による即時抗告によるべきかについては議論のあるところであるが、他方、差押命令の効力は、同法第五九八条第三項の規定により、同命令が第三債務者に送達された時に生ずるものとされ、転付命令の効力は、同法第六〇一条、第五九八条第二項の規定により、同命令が第三債務者及び債務者に送達された時に生ずるものとされていることに照らせば、転付命令が第三債務者及び債務者に送達されることによって当該強制執行手続はすべて終了するものと見るのが相当であり、したがって、その後においては、差押・転付命令に対し同法第五五八条により即時抗告を申し立てる余地はないものと解すべきである。

もっとも、右のように解するときは、執行債務者が、差押・転付命令の基本となった債務名義につき、右命令の発出前に既に強制執行停止決定を得ていた場合においても、執行債務者は、右執行停止決定の正本を執行裁判所に提出してその執行を阻止することが事実上極めて困難であるから、結果的に右執行停止決定の実効性が奪われることになることを避け難い。しかしながら、法は、転付命令をもって、差押債権者に対し、執行債権及び執行費用の弁済に代えて被差押債権を券面額で移転させるものとし、他の債権者の配当要求を排除して被差押債権を独占させることとするとともに、被差押債権の存否・帰属・態様並びに第三債務者の支払能力・支払意思の有無等の判断を差押債権者自身にゆだね、これに伴う危険の一切を執行債権者に負担させることとして、法律関係の簡明な決済を図ることにしているのである。したがって、右のような転付命令の趣旨・目的にかんがみるとき、その法的安定性は十分尊重されるべきであり、転付命令の発出後においてもなお執行手続上その違法性の有無をめぐる争いを続けさせることにより、執行手続及び関係当事者の法的地位の安定を害する結果を招くことは、制度の趣旨に反する(執行手続終了後も、執行手続外において転付命令の無効を主張することが許されることはいうまでもないが、これは別問題である。)ものといわなければならない。

もっとも、この点に関しては、執行債務者の保護についても考慮すべきであるとする見地から、類型的又は個別的に右の例外を認め、執行債務者の救済を図るような法解釈がなされるべきであるとする見解も存在するところである。

しかしながら、仮に例外的に転付命令に対して即時抗告をなし得べき場合を認めるとして、(1)いかなる場合にこれを許容すべきものとするか(例えば、本件におけるように、執行債務者が強制執行停止決定を得ていた場合についていえば、(イ)転付命令の発出前に強制執行停止決定が存在していたことをもって足りるとするか、(ロ)執行債権者が転付命令を申請する時点において強制執行停止決定の存在を了知していたことを必要とするか、(ハ)執行債権者が転付命令の申請前に強制執行停止決定正本の送達を受けていた場合に限って許容するか等)、(2)いかなる事由がある場合に、例外的に転付命令を取り消すべきものとするか(債務名義の不送達、被転付適格の欠缺、差押えの競合その他種々の事由が考えられるが、いかなる範囲にわたってこれを取消事由とするかの問題がある。なお、執行債務者が強制執行停止決定を得ている場合であっても、その理由はともあれ、現実に停止決定の正本が執行裁判所に提出されていなければ、転付命令を発したことが執行手続上違法であるとの評価を受けるものではない。したがって、この場合に即時抗告を許容するとすれば、それは、強制執行停止決定正本提出の追完を認めることとし、その機会を与えるために、特に即時抗告の形式を利用することを許容するという立場をとり、この場合において、即時抗告の申立てとともに強制執行停止決定の正本が提出されたときは、あたかも執行裁判所が発令手続中に強制執行停止決定正本の提出を受けた場合と同様に、抗告裁判所において、執行停止のために必要な措置、すなわち転付命令又は差押・転付命令の取消しをすることを認めるという考え方によらざるを得ないものと思われる。)については、多種多様な考え方が成り立ち得るのは当然のことであり、これらの点に関して一定の類型を定め、これに合致する場合については、例外的に手続の完了後においても、既に効力を生じている執行裁判所の執行処分を取り消し得るものとするのは、もはや法解釈の限界を逸脱するものと考えざるを得ない。また、執行手続上の不服申立てにおいて、執行債権者に信義則違反と評価されるべき点があるか否か、執行債務者が執行阻止のために真摯な努力を払ったか否か等の事情を審査することにより、当該不服申立手段利用の適否を決するがごときは、決して当を得たものとはいい難いのである。

以上のように考えると、結局、強制執行停止決定正本の提出を追完させる機会を与える目的等のために例外的に即時抗告を許容すべきであるとする見解は、現行法の下においては採用し難いものといわざるを得ない。

(貞家 長久保 加藤)

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